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そうだ、物語のちからを使おう。

そうだ、物語のちからを使おう。
みなさん、好きな物語はなんでしょう?こんなことを聞かれてパッと思いつく人も少ないと思いますが、僕もすぐには答えられません。日本神話も好きですし、1980年代の暴走族の青春を描いた物語『爆音列島(高橋ツトム著)』も好きですし、これまでたくさんの物語に心を動かされ、影響を受けてきました。そんなこんなで「物語のちから」にはかねてから関心があったのですが、今回は近年「ストーリー」とは違った視点で注目されている概念「ナラティブ(narrative)」について記事にしてみようと思います。

ナラティブとは何か。

そもそもナラティブとは何か。聞いたことすらない方がほとんどだと思うので、言葉の意味から書いていきます。まず、わかりやすいように、私たちになじみ深い物語を意味する言葉「ストーリー」の定義から…。

ストーリーとは、特定のヒト・モノ・何かの経験を語ることを言います。私たちが古くから慣れ親しんでいる『桃太郎』や『竹取物語』も、特定の人物(主人公)である桃太郎やかぐや姫の経験を語るものですよね。それが人や媒体を通じて何十年も何百年も少しずつ形を変えながら語り継がれています。

 

それに対してナラティブは、言うなれば「個人的な経験を語ること、個人としての物語」です。

簡単な例を挙げてみます。映画を見たとき、人々はそれぞれ何かを感じます。そしてそれを自分の経験として人に語り始める―。これがナラティブの一例です。

そしてナラティブにはストーリーにはないひとつの重要な特徴があります。それは「対話」が生まれるということ。

映画の考察サイトを思い浮かべてください。ストーリーに想像の余白がある作品ほど、考察が飛び交い、顔も知らない観客同士の対話が盛り上がっていますよね。そして、「勝手に世界が広がっていく」―。作者の思いもよらないところにまで波及するエネルギーが、対話によって生まれていく。それがナラティブの強さです。

ビジネスの世界でも注目を集めているナラティブ。

ビジネスに置き換えてみると、もっとわかりやすいかもしれません。あるブランドの「十数年の研究の末、ようやくこの素晴らしい商品が誕生した」と語るのがストーリーだとしたら、そのブランドの商品を使った(いや、正確に言うと商品を使うに限らずブランド体験を得た)ユーザーが、その体験を基にそのブランドについて語りだすのがナラティブです。

そしてときには、それが大きな渦となって、そのブランドだけではなしえないことを成し遂げてしまうこともあるのです。

ブランディングの世界では、企業や商品のストーリーについて語られることが多かったのですが、この情報爆発の時代においては、企業が自社のストーリーを語ったとしても、多くのユーザーの心には届きません。

極端なことを言えば、ユーザーは「友達や信頼のおける人物が語ること」にしか耳を傾けない。そこで注目されているのが、同じ世界観を共有するユーザー同士のナラティブをどのように発生させていくかということなのです。

良質な問いと文脈はナラティブを生み、波及する。

ナラティブの例として有名なものをひとつご紹介します。2018年1月、twitter上で大喜利大会にまで発展した「#任天堂を許すな」です。 ことの概要は以下の通り。

ゲーム会社のコロプラを任天堂が訴える

それに反発する形でコロプラサイドのファンが行動を開始

「#任天堂を許すな」というハッシュタグでの投稿が始まる

そこにいつしか任天堂ファンも加わり、任天堂の良き思い出を語る大喜利に

読んでお分かりの通り、文体こそ怒りの体裁を取ってはいるものの、どのツイートも任天堂というブランドのポジティブなユーザー体験について語るものになっています。では、どうしてこういうことが起こるのでしょう。きっと単純に「#任天堂の思い出を語ろう」というハッシュタグでは、こんな現象は起こらなかったはずです。

考えられる要因は二つあると思います。ひとつは、「問い」の精度。対話が盛り上がる良質な問いとは、「自分ごとで話せるかどうか」で決まると言われています。その意味では、多くのファンを持つ任天堂の「体験(思い出)」は、自分ごとで話せるものになっていて語りやすい。そしてもう一つは「文脈(コンテクスト)」です。この「#任天堂を許すな」は、悪口を言っているようで褒めているところが、「その言い方うまい!」と、多くのユーザーに「頓智的に面白がる文脈」として受け入れられ、大喜利として盛り上がりました。

 

結果、「#任天堂を許すな」は多くのユーザーが目にすることとなり、その広告効果は絶大なものとなりました。しかし、こうしたナラティブの可能性は、広告だけに収まるものではありません。あなたの会社の経営や、プロジェクトの遂行にも役立てられると思います。世界の人が自分ごととして話せる「問い」があり、語りやすい文脈さえあれば、地球規模の課題解決にも作用する可能性があります。映画『インディペンデンス・デイ』で世界中が協力してエイリアンを倒したのと同様に、ブランドにもその力があるということです。

話は壮大になりましたが、シンプルに言えば、ブランドのアイデンティティに則り、ユーザーがどんなときにどんな体験を提供されたらうれしいかを常に考えて実行し、ブランド価値を高めるということが大きなナラティブを起こすための土台です。本当に困ったときに助けられたら、誰かに話したくなる。本当にお腹が空いているときに美味しいものを食べたら、誰かに話したくなる。人間ってそういう生き物ですよね。

 




山田 裕一
この記事を書いた人 山田 裕一 CEO / BRANDING FACILITATOR
東京都調布市に生まれ、ずっと京王線沿いで育ちました。浅草に事務所を構えるようになってからは、週のほとんどを浅草で過ごし、訪れた飲食店の数は200以上。モーニング、ランチ、ディナーそれぞれにおすすめがあるので、お店選びに困ったら遠慮なく聞いてください...
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