1:未来の景色を見せてくれる言葉。
この本はコピーライティングの本ではなくて、どちらかというと起業家の方、新規事業を立ち上げる方に向けられた本だなという印象。 要は、グーグルやアップルといった企業が世界を変えてきたのは、そのビジョンを的確に示した「一行の言葉」、つまり「ビジョナリーワード」を持っていたからだ、という話で、その言葉をつくるステップまで、踏み込んで書かれています。
例えば、かつてコンピューターが巨大な機械だった時代に、PARCのアラン・ケイは「パーソナル・コンピューター」というビジョンを描きました。運用に莫大な予算がかかり、大勢の人員を必要とした頃です。 当時のことはぼくにはわかりませんが、今で言うスパコンみたいな感じが、コンピューターのデフォルトだったのかなと想像します。
よくできたビジョナリーワードは、「未来からの絵ハガキ」に喩えることができます。 その人だけが数十年後へとタイムスリップし、まるでそこから現在へ一枚の写真を送ったかのように、鮮明で魅力的な景色を見せる。そんな言葉になっているのです。
―引用元:『未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略』
アラン・ケイが打ち出した「パーソナル・コンピューター」という概念は、人々に、未来のコンピューターの性能の高さ、価格の低さ、サイズの小ささなど、当時のコンピューターにはありえない景色を見せたことでしょう。
そして、そのビジョンを美しく実現したのがスティーブ・ジョブズだった、とのことですが、その後ビル・ゲイツは、コンピューターの次なるビジョンを打ち立てました。
「すべてのデスクと、すべての家庭にコンピューターを。」
言葉としては回りくどいんですが、新しい景色がはっきり見えるという点ですごいビジョナリーワードだなと思います。ビジョンを実現するためには、価格やサイズだけでなく、使いやすさなど、クリアするべき課題が次々に明確になるのもすごくいい。
言葉には、誰も見たことがない風景を見せる力があります。文学的な言い回しや、ポエムのような繊細さは必要ありません。 たった一枚の絵ハガキが人を旅に誘うように、ビジョナリーワードもまた、人を未来へとかき立てる力が問われるのです。
―引用元:『未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略』
世の企業のビジョンやコーポレートスローガンを研究すると、似たような印象を受けるケースが非常に多いことに気づきます。特に大企業だったり、事業展開の幅が広かったりという場合は、それらを包括する言葉を据えようとすると、どうしてもメッセージがふわふわとしてしまいがちです。
ですから、「アジアナンバーワン」「未来を切り拓く」「お客様に最高の価値を約束する」といった言葉はビジョナリーワードとはなりえません。 ビジョンと呼ばれていたとしても、何ら新しい景色を見せてはくれない。その意味では、「号令」や「かけ声』と名づけた方が正確だと思われます。
―引用元:『未来は言葉でつくられる 突破する1行の戦略』
事業のスコープが絞れていない、あるいは、まだ立ち上げてから間もない企業で、特定の強みを見つけられていない(それを見つけるものぼくらの仕事ですが)場合、この先も長く社員が目指す“旗”となるようなビジョナリーワードを生み出すことは難しいかもしれません。
ただ、ビジョナリーワードこそが企業の目的地をセットする言葉だとすると、それが見つけられていない状態というのは、企業として進むべき道が定まっていない状態と言えるかと思います。そういったクライアントに対しても、ぼくとしては経営戦略・事業戦略を一緒に考えていきたいなと思ったりするわけですが、それは一旦置いとくことにします。